矢出川遺跡は、八ケ岳南麓にあたる長野県野辺山高原に位置し、標高1340mを測る。現在国史跡として指定されている。遺跡まではJR小海線の野辺山駅で下車、徒歩20分程度である。
群馬県岩宿遺跡発見より4年後の1953年12月、地元佐久の考古学研究家由井茂也が採集していた石器に注目した芹沢長介は、由井らとともに、吹雪をおして矢出川遺跡にたどり着き、日本で初めて細石刃と呼ばれる小型石器を発見した。以後、明治大学による発掘調査などが何度かなされた。
矢出川遺跡では、ナイフ形石器群と細石刃石器群という2つの時期の石器群が確認されている。ナイフ形石器には横長剥片を素材としたものがみられ、AT火山灰降灰直後の後期旧石器時代後半期初頭の石器群であることがわかる。細石刃石器群は矢出川技法等と呼ばれる半円錐形の細石刃石核を含むもので、後期旧石器時代の最終末期に位置づけられる。
矢出川遺跡では、発掘・採集資料を含め781点の細石刃石核が出土しており、国内にある1792ヶ所の細石刃遺跡の中で最多の出土数となる。また、細石刃は少なくとも2000点以上が確認される。このような多量の細石刃石核が残されたのは、たとえ累積的であれ、矢出川が拠点的なキャンプサイトであったことを物語ると思われる。石器の中には200km離れた伊豆七島神津島産の黒曜石が多数あり、学問上の大きな問題となっている。
矢出川遺跡の細石刃石器群は、JR野辺山駅前の南牧村美術民俗資料館と明治大学博物館で常設展示され、見学することができる。
用語 | |
細石刃 (さいせきじん) | 後期旧石器時代の末期に使われたカミソリの替刃ほどの小型石器。槍やナイフの刃として付けられた。 |
ナイフ形石器 (ないふがたせっき) | ナイフのような鋭い刃を一部に残し、周囲に急角度な加工を施した石器。日本列島の後期旧石器時代の前半から後半にかけて特徴的に存在する。 |
横長剥片 (よこながはくへん) | 石器の素材となった横幅が広い石片。 |
AT火山灰 | 今から29,000年前の鹿児島県姶良カルデラの巨大噴火によって、日本列島の広域に降り積もった火山灰。後期旧石器時代の前半と後半を分けるカギとなる重要な火山灰層。 |
細石刃を剥がす母体となったもの。 |