日本旧石器学会
日本列島の旧石器時代遺跡

サキタリ洞遺跡 Sakitari-do cave site
後期旧石器時代 前半〜後半 約35,000〜約14,000年前

1 位置

 沖縄島南部の南城市と八重瀬町の境を流れる雄樋川(ゆうひがわ)の流域には、多くの石灰岩洞穴が分布しており、観光洞として公開されている玉泉洞(ぎょくせんどう)とその周辺に分布する洞穴群は、玉泉洞ケイブシステムと呼ばれる大規模な洞穴群を形成している。サキタリ洞はそうした洞穴の一つで、現在はガイドツアーコース「ガンガラーの谷」のケイブ・カフェとして利用されている(写真1)。

 サキタリ洞は東西に二つの開口部をもつ大ホール型の洞穴で、洞内の面積は約620 m2、天井高は約7mを測る。現洞床の標高は約30mで、現海岸線までは1.5kmほど隔たっており、最終氷期最盛期には海岸線から5kmほど内陸に位置していたと考えられる。2009年から沖縄県立博物館・美術館による継続的な発掘調査が行われている。

2 経緯

 1970〜80年代にかけて行われた観光地開発に伴って遺跡の存在が知られていたが、本格的な調査は行われていなかった。2009年から、沖縄県立博物館・美術館によって洞穴内外の3 カ所の調査区(調査区T〜V)で発掘が行われている。このうち、西側洞口部の調査区Tと調査区Vでは主に旧石器時代(約40,000〜 10,000万年前)の地層が、東側洞口部の調査区Uでは主に縄文時代以降(9,000年前以降)の地層が確認されている。

 調査区Tでは地表下約2m まで発掘を実施し、結果としてこの地点の堆積物は以下のように区分することができた(写真2)。

3 出土品の概要

 調査区TのU層からは断片的な人骨とともに世界最古の巻貝製釣針をはじめ、マルスダレガイ科(マツヤマワスレ)やクジャクガイを利用した加工具、シマワスレ、ツノガイ類を利用した装飾品(ビーズ)など、多様な貝器類が出土した(写真3)。マルスダレガイ科の貝器には一辺に凹状の刃部をもつ「扇形貝器」が特徴的に見られる。このほか、炭化物とともにモクズガニの爪やカワニナ、カタツムリが大量に出土しており、これらは旧石器人の食糧残滓と考えられる。以上のことから、約20,000年前のサキタリ洞遺跡の旧石器人は、多様な貝器を製作、使用し、河川性の資源を活発に利用していたことが明らかとなった。また、調査区TのT層からは14,000年前の地層からは断片的な人骨とともに石英製の石器や、巻貝(マツムシ)製のビーズが発見されている。サキタリ洞遺跡の周辺には石英は分布しておらず、30km 以上離れた沖縄島中北部から人為的に持ち込まれたものと考えられる。
 現在のところV層以下の調査はごく狭小な範囲に留まっているが、V層中からは約30,000年前の人骨(環椎)とともにモクズガニの爪やカワニナが検出されており、サキタリ洞における人為活動は35,000年前頃までさかのぼると考えられる。

 
(山崎真治)(写真提供 沖縄県立博物館・美術館)


用語

石灰岩 生物起源の炭酸カルシウムから成る水成岩。石灰岩層中に形成された洞穴や岩陰では、アルカリ分の作用で骨や貝がよく保存される。沖縄県には更新世の隆起サンゴ礁からなる石灰岩が広く分布しており、旧石器時代の人骨が多く発見されている。
貝器 熱源として利用するために木材等を燃焼したと考えられる穴の跡で、中に多量の炭化物片が含まれている。
モクズガニ 甲幅7〜8cm程度のカニで、鋏脚(かんきゃく)に濃い毛をもつのが大きな特徴である。成体は晩夏から秋に河川の淡水域で見られ、秋から冬にかけて繁殖のために海に下る。サキタリ洞出土のモクズガニは大型のものに偏っており、秋に産卵のために川を下る個体を集中的に捕獲したものと考えられる。

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