武蔵台遺跡は、東京都府中市武蔵台二丁目に所在し、現在の都立多摩総合医療センターの敷地に相当する。武蔵野台地上に位置し平坦であるが、すぐ南に高低差約12mの国分寺崖線がある。眼下が見下ろせる見晴らしの良い高台である。
JR中央線西国分寺駅から徒歩20分。もしくは、多摩総合医療センター行きバスに乗って終点すぐである。現地に遺跡を偲ぶものはないが、すぐ近くには武蔵国分寺跡、武蔵国分尼寺跡があり、史跡公園として整備されている。
また、西側に隣接する府中市武蔵国分寺跡関連遺跡、国分寺市多摩蘭坂遺跡と一体のものと考えられ、合わせると約90,000uに及ぶ大規模な遺跡である。
都立多摩総合医療センターの前身、都立府中病院の建設にあたって、1979年に事前調査を行なったのが最初の発掘調査である。1981〜1982年の第2次調査は、都内最古級の石器が出土したことで話題になった。その後、発掘調査は断続的に約10回行なわれ、2003年から2007年にかけて東京都埋蔵文化財センターによって調査がなされたのが最後である。
旧石器時代の石器は、約27,000点が出土した。また、武蔵国分寺跡関連遺跡、多摩蘭坂遺跡を合わせると、約40,000点に達しており、南関東地方で最大級である。
石器群の特徴の第一は、その圧倒的な出土量である。旧石器人が約35,000年前から20,000年前まで断続的に石器を遺した累積的な行為の結果と言えよう。その中で最も多いのが、「X層・W層下部段階」と言われる石器群である。合計で約23,000点の石器が出土した。近くの多摩川で採取したチャートやホルンフェルスと、伊豆・箱根で採取した黒曜石を使用しており、南関東地方を東西に行き来して生活していたことがわかる。
第二は、]層石器群という、南関東地方の最古と考えられている石器群である。石器の組成として局部磨製石斧を有するが、それ以外には定型的な石器がほとんどない 。合計で約4,500点の石器が出土しており、こちらは同時期の石器群で、全国最大級である。日本列島にはじめて渡来した旧石器人を考える上で、重要な遺跡である。
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X層・W層下部段階 | 南関東地方の約25,000年前の、3〜4,000年間続いた、石器群の時期段階。X層・W層下部とは武蔵野台地の地層の名前で、X層が地表から5番目の地層、W層下部が地表から4番目の地層の下半分であることを指している。旧石器時代で最も寒かった時期のひとつと考えられるが、南関東地方では前後の時期よりも遺跡数が多い。人口が増えたのではないかと考えられている。 |
]層石器群 | 「]層段階」ともいう、南関東地方では最古の時期の石器群。南関東地方では]層より古い地層から遺物が出土したことがないので、最古とされている。南関東地方に約80の遺跡・石器群がある。 |
局部磨製石斧 | 主に刃の部分を磨いた石斧。旧石器時代には磨製石器は存在しないといわれていたが、日本の後期旧石器時代初頭に存在することがわかった。はじめてきた土地に住み家を作るため、木を伐るのに利用したと考えられる。 |