原田遺跡は、島根県奥出雲町、出雲地方一の大河である斐伊川中流、標高約200mの河岸段丘上に立地する。現在の河道から地表までの比高は5〜10mほどである。 現状はダム敷地だが、好天時には道路から遺跡を観察することができる。
治水事業に関わる尾原ダム建設に先立って、2005〜2007年に、島根県教育委員会が発掘調査を行い、旧石器時代の遺物、遺構等が見つかっている。 遺跡の東、約35qにそびえる三瓶山から噴出した火山灰やAT火山灰などが幾重にも重なっており、3つの層から旧石器時代の遺物が出土している。
7層の下層からは、台形様石器や局部磨製石斧、石斧製作用の砥石などが出土している。隠岐産黒曜石多用しているのも特徴である。また、石器の集中部が(ブロック)が環状にめぐる部分もある。後期旧石器時代でも、古い時期の石器群と考えられる。
5層は角錐状石器を中心とした石器群で、礫群や炭が集中した部分が多く見られるのも特徴である。2〜3層は、安山岩製の多くのスクレイパーに少量の小型ナイフ形石器が伴うのが特徴である。
火山灰に挟まれて、新古のはっきりわかる石器群が4群に分かれて出てきており、中国地方の後期旧石器時代の石器の移り変わりを知るために重要な資料である。また、土抗、礫群、炭集中部など、人間の行動の痕跡が調査されており、当時の人間活動を知る重要な遺跡でもある。
用語 | |
AT火山灰 | 今から29,000年前の鹿児島県姶良カルデラの巨大噴火によって、日本列島の広域に降り積もった火山灰。後期旧石器時代の前半と後半を分けるカギとなる重要な火山灰層。 |
三瓶浮布火山灰 | いまから19,000年前、三瓶山で多量の軽石と火山灰を噴出した火山灰。東の中国地方から近畿地方にかけて広く分布しており、広域テフラとして鍵層となってる。 |
台形様石器 | 加工により整形された基部と、鋭い素材縁辺による刃部がある台形状の石器。 |
局部磨製石斧 | 主に刃の部分を磨いた石斧。旧石器時代には磨製石器は存在しないといわれていたが、日本の後期旧石器時代初頭にはこの石器が特徴的に存在する。 |
ナイフ形石器 | ナイフのような鋭い刃を一部に残し、周囲に急角度な加工を施した石器。日本列島の後期旧石器時代の前半から後半にかけて特徴的に存在する。 |