日本旧石器学会
日本列島の旧石器時代遺跡

土手上遺跡 Doteue site
後期旧石器時代 前半〜後半 35,000年前〜

1.位置

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 土手上遺跡は静岡県沼津市に所在し、愛鷹山南麓に立地する。愛鷹山南麓には、後期旧石器時代の遺跡が多く分布していることで知られている。

2.経緯

 土手上遺跡は愛鷹運動公園の建設に伴う調査で発見された。その調査の過程で、愛鷹運動公園の用地は後期旧石時代の遺跡が特に集中していた場所であることが明らかとなり、発見された遺跡群は足高尾上遺跡群と呼ばれている。

3.石器群の内容

 土手上遺跡では後期旧石時代前半期から後半期の複数の時期の石器群が検出されている。その中で、およそ3万5千年前から3万4千年前の地層であるBBV層から出土した石器群については、様々な先進的な研究が行われてきた。BBV層の石器群が残された時期は、日本列島にホモ・サピエンスが進出し定着した最初の文化期に属し、当時の人々(ホモ・サピエンス)の技術や行動について明らかにされている。BBV層では3つの地点(第T地点・第U地点・第V地点)で複数の石器集中のまとまりが検出されており、いずれの地点でも台形様石器や斧形石器を含む石器群が出土している。第T地点では環状ブロック群が検出されており、北側半分のみ調査されて記録された。BBV層から出土している多数の黒曜石を対象として蛍光X線分析による「全点分析」が初めて実施された。これによって神津島産の黒曜石が利用されていたというより確実な証拠が得られた。これは往復航海に関する世界最古の証拠ということにもなる。また、環状ブロック群(北側半分)の東半分と西半分で石器石材の構成や黒曜石の原産地の構成が異なることが明らかにされた。このことは、異なる遊動領域を持つ集団がこの場所に一時的に集まって生活していたことを示し、当時の人々がより広域のネットワークを持ち、集団構成もより複雑であったとことを示す証拠としてとらえられている。また、土手上遺跡から出土した台形様石器の分析が行われ、台形様石器は狩猟や解体といった複数の用途で用いられ、土手上遺跡において台形様石器を装着した狩猟具のメンテナンス(先端部の付け替え)が行われたことが明らかにされている。さらに、実験研究の成果に基づいて、台形様石器が装着された狩猟具はクッション性のある構造を備えており、投槍器(あるいは弓矢)のような器具を用いて投射されていたと推定されている。

(山岡拓也)(写真提供 沼津市文化財センター)




用語

環状ブロック群: 後期旧石器時代前半期に残された複数のブロック(石器集中のこと)が環状に分布する遺構であり、日本列島全域では、百例以上の検出(発見)例がある。石器の接合分析から、この環状に分布するブロック群はほぼ同時に残されたことがわかっている。環状ユニットや環状集落と呼ばれることもある。

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