■ はじめに

　日本列島の旧石器時代遺跡からは、さまざまな石の道具＝石器がみつかります。その石器が「どのように使われたか」を調べることによって、当時の生活の様子などが復元可能です。

　ここでは「石器の使われ方」＝「石器の機能」について、これまでの研究からわかっていることをご紹介したいと思います。

■ 石器に残されたキズ＝使用痕

　カッタ―ナイフを何度も使っていると、刃こぼれがおきて、切れにくくなる経験があるかと思います。石器も何度か使っているうちに、刃こぼれが生じます。こうした刃こぼれなどのキズは＝使用痕と呼ばれます（図１）。

　石器の使用痕は、刃こぼればかりでなく、その使われ方によって、線状のキズ＝線状痕、光沢、剥がれ、折れなどさまざまな現象が生じます。そこでその使用痕を顕微鏡などで細かく観察することで、石器の使われ方がわかるのです。

　また、石器の模造品を実際に使って、骨を削ったり、木を切ったり、皮をなめしたり、という実験し、その実験結果と実際の使用痕を比較することで、石器の使われ方がより明確になります。

■ モノを突き刺す石器

　大正大学の御堂島正（みどうしまただし）さんは、先の尖った模造石器を柄にくくりつけ、対象に向けて何度も投げつける実験をしました。その結果、模造石器の先に、溝のように細長い特徴的な使用痕が生じていることがわかりました。

　各地の旧石器時代遺跡から発掘されるナイフ形石器の一部にはこうした溝状の剥離が観察されることから、名称にあるナイフというよりは、突き刺す石器であったことがわかります（図２）。動物を射止めるためのヤリの先端につけられていたのでしょうか？

　尖頭器（せんとうき）と呼ばれる石器の先にも溝状の剥離が観察されることがあり、突き刺す用途のものが存在していたことがわかります（図３）。

■ 皮なめしの石器

　模造石器で皮なめしをおこなうと（図４）、ざらざらした鈍い光沢をもつ皮なめし特有の使用痕が生じます。こうした使用痕は、掻器（そうき）と呼ばれる石器の刃にみつかることが多いのです（図５）。実際、掻器の刃は、分厚く円形で、皮を傷つけにくい形状になっており、皮なめしに適しています（図６）。

　旧石器人は、とった獲物（えもの）の皮をなめし、製品にしていたことがうかがえます。氷河期にあたる寒冷な旧石器時代には、掻器によってなめした毛皮の衣服などをまとっていたのでしょう。

図４　掻器（複製）による皮なめし実験

■ 骨を削る石器

　なんども骨を削る実験を続けていると（図９）、石器の刃の部分に解けかけた雪のような光沢（ボーン・ポリッシュ）が生じていることが、顕微鏡で観察されます。

　私自身、荒屋型（あらやがた）彫刻刀形石器（図７）と呼ばれる石器の刃の部分を顕微鏡観察した時、この種の光沢（図８）が多く見つかり、骨を削った石器であることがわかりました。なお、この石器は、彫刻刀形石器という名がありながら、彫刻刀のように溝を掘るのではなく骨を削るために使われていて、名前が石器の使い方を表していない例です。

図９　骨を削る実験 荒屋型（あらやがた）彫刻刀形石器使用

■ 斧と砥石・敲石

　日本列島では、3万年前以前から刃を磨いた斧形の石器＝局部磨製石斧（きょくぶませいせきふ）が出現します。伐採（ばっさい）用とも、動物の解体（かいたい）用ともされる議論の多い石器です。これといっしょに発見される砥石（といし）があります。この石器は文字通り、局部磨製石斧の刃を研いだものと考えられます（図10）。

　また、遺跡からはときどき敲石（たたきいし）と呼ばれるハンマーがみつかります（図11）。石器を打ち割るために使った石器です（図12）。

図12　たたき石による石器の打ち割実験

■ 調理用の石器

　鹿児島県など南九州の遺跡からは、丸くてザラザラした表面の磨石（すりいし）と呼ばれる石器が数多くみつかります。温暖なこの地域で採れる木の実などをすり潰した石器と考えられています。