日本旧石器学会

会長あいさつ

2020年7月8日 
佐藤 宏之  

 今般の新型コロナウイルス感染症蔓延の影響を受けて、やむを得ず今年度の大会・総会が中止となり、そのかわりに行われた書面での総会事項の議決が6月末に実施されました。書面議決の結果、阿子島香・前会長の後を受け、新しく会長に選出された佐藤宏之です。東京大学大学院人文社会系研究科考古学研究室教授として、日本およびアジアの旧石器時代に関する教育・研究を担当しています。私は、阿子島前会長の前に、2014〜2018年の間会長を務めさせていただきましたので、再登板ということになります。異例のことではありますが、どうかよろしくお願いいたします。

 日本旧石器学会は、2000年に発覚した「旧石器捏造事件」の反省のもとで2003年12月に設立された若い学会で、旧石器時代研究のアカデミアとして、ようやく成熟しつつある段階を迎えたと思っています。そのことは、今回の役員の布陣にもよく現れています。1期2年の短い任期ではありますが、学会として以下のような目標の達成を重点としていきたいと考えています。

 従来にまして、日本各地の地域研究会との連携をより緊密にし、地域に根ざした旧石器時代の研究を一層発展させていきたいと思います。同時に、日本・中国・韓国・ロシアの四カ国が結成したアジア旧石器協会(APA)の活動をより活性化させ、四カ国以外の他のアジアの国や地域のAPA加盟を実現できるよう促して参りたいと思います。今年度は中国でAPAの大会が開催される予定でしたが、あいにくの新型コロナウイルス感染症の影響で、1年順延されることになりました。

 学会としてまず対応していかねばならないのは、新型コロナウイルス感染症対策に配慮した学会の運営を模索し、実行することにありましょう。現状を見る限りことは一過性ではなく、当分の間with coronaの状況が続くとみなされていますので、特に大会の実施方法は、3密(密閉・密集・密接)の回避に十分配慮した運営方法が求められると思います。社会や諸学会等の対策等を十分参考にしながら、会員一同とともに検討をくわえて参りたいと考えています。

 現在世界の旧石器研究は、考古学だけではなく、地質学・動植物学・古人類学・年代学・環境科学等との協同が必須とされる総合科学となっていますので、関連諸科学との連携をさらに密にし、研究集会や会誌『旧石器研究』の学際化・国際化を図っていきたいと思います。特に旧石器学会では、設立以来、日本の旧石器時代遺跡のデータベース化作業に学会を挙げて取り組み、16,000箇所以上の遺跡データを網羅した『日本列島の旧石器時代遺跡』を2010年に刊行しましたが、その成果は国内外で高く評価されており、研究の基礎を提供しています。データベース委員会等を中心に、すでにその充実・改定作業を続けておりますが、今年度以降そのデータ更新および英文化とWEBでの発信をより加速化させたいと思います。

 次世代を担う若手研究者の育成(学会賞・研究グループ制度の充実等)を行い、民主的な議論の場を今後も学会が提供しながら、同時に真の意味でのアカデミック・ソサイエティーとしての日本旧石器学会を目指したいと思います。

 未曾有の社会・研究環境を迎えていますが、会員一同と力をあわせてこの難局を乗り越えていきたいと思いますので、どうかお力添えをよろしくお願いいたします。


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